火星衛星探査の挑戦を宇宙開発の弾みに 火星衛星探査の挑戦を宇宙開発の弾みに

日本経済新聞 2026年10月26日

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、火星の衛星フォボスから砂を持ち帰る探査機を日本の主力ロケット「H3」で打ち上げた。地球に帰るのは2031年になる。約5年に及ぶ計画を世界初の成功につなげてほしい。

火星本体は米国などが探査車を送り込んでいるが、火星やその衛星がある火星圏で採った物質を地球で調べた例はない。フォボスから回収できれば太陽系の成り立ちや生命が存在しうる環境の謎に迫れる。米航空宇宙局(NASA)や欧州の機関も加わる今回の計画は国際的な期待が集まる。

探査機は27年夏に火星を回る軌道に入り、フォボスの観測や着陸をめざす。30年に火星圏を離れ、地球に向かう。

かつて小惑星の砂を地球に持ち帰った日本の探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」の技術は強みだ。火星本体は重力が大きい。採取した物質を火星の外に持ち出すには巨額のコストを伴う。JAXAの予算はNASAに遠く及ばない。火星から飛んできた物質が積もるかもしれない衛星を目標に定め、莫大な費用をかけずに謎をひもとく戦略は賢明といえる。

打ち上げは計画の始まりに過ぎない。日本の技術をもってしても、重力が小さい衛星での着陸や砂の採取は極めて難しい。それでも挑む意義は大きい。探査は人類の好奇心を満たすだけにとどまらない。火星圏との行き来は、人類の火星滞在を見据えた準備の意味合いがある。

技術の進歩は速い。フォボスの探査計画を終える頃には、米国や中国の宇宙飛行士が月面に降り立ち、活動を始めているはずだ。その先には火星の有人探査がある。

宇宙開発は歴史の転換点を迎える。日本には火星衛星探査でみせる存在感や世界からの信頼を次の宇宙開発の舞台でも生かしてもらいたい。宇宙先進国の一角を占める国として月面活動のルールづくりなどで先導役になるべきだ。

計画の構想から約10年の試行錯誤を乗り越えてここまでたどり着いたチームの取り組みをたたえたい。今後は5年にわたって困難に挑み続ける姿勢を通じて、将来の宇宙開発を支える人材を育む手腕も問われよう。